山内末行さん
春日町は広瀬、少し山間に入ろうかというところで、
家の前で笑顔で出迎えてくださったのは山内末行さん。
山内さんは大阪でのサラリーマン生活を経て丹波に帰郷、それから流れるように竹細工を作り始めました。
「初めはなんとなしにクワガタを作って、そうしたらいつの間にかこんな風になりました」語られる
工房の中には所狭しと山内さんの作品が並べられています。
クワガタやバッタをはじめとし、コスモス、小鳥、カエルなどユーモラスで特徴をとらえた
作品の原料はすべて、竹。
「竹で作れないものはない、そう思っています。竹の形はどのようにも生かせます」
そういうと山内さんは細い竹の枝を手に取り、ライターであぶり始めました。
すると竹を自由に曲げることができ、たとえばそれは虫の足などの形へと姿を変えていきます。
すいすいと器用に、虫でも、鳥のくちばしでも、お話ししながら自然とお手の動く山内さん。
それを見て私たちも体験させていただきましたが、なかなかどうしてこれが難しいものです。
経験とともに磨かれた技。
「結婚した相手には逆らっても、竹には、竹の繊維には逆らってはいけません」
ユーモラスに語る竹細工の達人、山内さんは今、丹波市全域の小学校で竹細工の授業に
クラブ活動の指導にと忙しくされています。
また山内さんのお宅には丹波市だけでなく兵庫県、京都府や大阪府からも竹細工を習いたい、
工作のヒントをいただきたいと多くの人が訪れています。
「とにかく子供が好きやからね。こうやって子供に教えているけど、
こっちが子供に元気をもらっているようなものです」
山内さんは三年前に大病を患いました。
その時に「今日の日をただ、懸命に生きよう」と悟ったのだと言います。
「モノづくりの心を一人でも多くの子供たちに伝えたい、だから学校からの依頼は断らないんです」
病気を克服され営々と日々の活動に励む山内さん。
その山内さんが伝えたいと願う「モノづくりの心」をお伺いしました。
「今は、お金を出せばどんなものでも簡単に手に入る。
子供たちも、モノがどんなふうに作らているのか知る機会があまりない。
でもこうやって竹細工を少しでもすると、こんな小さい虫の作品でもとても時間がかかることがわかる。
なんでも使い捨てのような時代やけど、子供たちは自分で作った作品は大切にするんです。
そんなところから、モノを大事にすることやモノのありがたさを感じてもらえたら」
山内さんのところに通った子供たちの中には、ワニの足を4週間も毎晩通って仕上げたお子さんや、
一枚一枚薄くチョウの羽を作り、3か月かけて標本を完成させたお子さんもいます。
子供たちはモノ作りを通して「集中力」を身に着けていき、
また何度失敗しても形が出来上がるときの喜び、根気強さも身に着けていきます。
「物作りで大切なのは観察力、そして発想力、集中力です。観察や発想は、
たとえば自然の風景や生き物をよく観察することで育っていきます。クワガタの足でも、
6本だということは習うけれど、たとえば真ん中の足はどちら側を向いているのかということは
あまり知らない人が多い。そういうことをよく観察することで、作品の形が決まってきます」
常に身近なものを観察し続けることで新しい作品への発想を膨らませていく山内さん。
「こうやってお話ししている間も、頭の中では次の作品のことを考えていたりします」という
言葉にも表れているように、常に未来を見据えて歩んでいらっしゃいます。
「人間の成長ということについては、死ぬまで成長やと思っています。ここまでできたらいいや、
じゃなくて、常にもっと上手になりたい、もっといい作品を作りたいと思いながら作っています」
たくさんの賞を受賞されるほどの腕前を持ちながら、なお向上心を失わない山内さん。
子供だけでなく大人も、山内さんに出会い、竹細工を通じて生き方のお手本まで
見せていただくような出会いが得られるのではないでしょうか。
<Information>
山内末行
丹波市春日町広瀬789
090-8827-4673
竹細工無料体験 随時受け付けています