どう生きるかを考える、春日町の高木さん

自然とともに生きる、そして自分の生活を自分の手で作る。
それを極限まで挑戦したらどうなるか―。
高木雅弘さんの生活はまさしくご自分の手でそれに挑戦し、成した形となっています。

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場所は春日町下三井庄。

通りから見えるのはたくさんの薪と、手作り感あふれる木のお住まい。
ここで高木さんは農業のかたわらパンを作って配送することで暮らしを形作っていらっしゃいます。

パンに使う酵母は自家製のブルーベリーを乾燥させ、発酵させたもの。
瓶に詰められたそれのふたを開けると、シュワシュワと生きている音が耳に届きます。

「昔から発酵するものが好きで、酢なんかも自分で作ったりしていました。
パンはたとえばきちんと作らなくても膨らんでくれる時がある。
そんな時には『参りました』という気持ちになりますね」

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目に見えないような小さな命をいつくしんで生きる。
高木さんの人生はあるときにシフトチェンジを迎えたのでした。

大阪でコピーライター、東京で小さな出版社に勤めていらっしゃったという高木さんはもとから大の本好き。
読書量も多いからなのかその言葉には含蓄がありボキャブラリーも豊富です。

サラリーマン生活を辞めてからは流れるままに沖縄に移住。

そこで「人間のキャパシティ、正直なところからうそつきなところまで人間のあらゆるところを
見せてもらった気がする」と語られる数多くの出会いを経て、生まれ故郷の丹波市に帰ってこられました。

「ずっと『楽に生きていきたい』ということを思っていました。それを自分なりに突き詰めて考えると、
それは自分で自分の生活を、手の届く範囲で作っていくことだと」

高木さんのいう「作る」は文字通りの「作る」でした。家の中で作る道具、
それはキッチンの棚、本棚、飾り棚、それに飾る装飾品に至るまで自らの手で作った木工品。

「自分でどれだけ自分の力で生活を1から10まで組み立てていけるか、
そしてできない部分はどこかを見極めて、できない部分はありがたく買わせていただく、
そういう生活をしていこうと思っています」

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今ではあらゆるものを、それほどの苦労もなく誰もが手にすることができます。

それでも「たとえばどんなことにも、光と影はセットだと思っています。
たとえば自然でも、キノコと毒キノコが交互に生息していたりする。
何かを得る時にはその陰の部分も引き受けなければならない。
現在は光の部分だけ引き受けてモノを手にすることもできます。
でもそれで我々がいきいきとできているかといえば、それは少し違うんじゃないかな」

手間も時間もかかるモノづくりをあえて行うことで、
利便性はないものの「いきいきと生きられる」そしてそれが逆に
「気楽に生きていける」と高木さんはいいます。

何かを成し遂げるだけが用ではない。
「無用の用っていうのかな、たとえばリスが、クルミやなんかを貯蔵のために埋めます。
でもそれをうっかり忘れてしまうんだね。そうするとそこから木が生えて森ができる。
リスたちの『うっかり』はとても周りの役に立っている。人間でもそんな風にどこか抜けているやつが好き」

えてして目標だとか数字だとかにとらわれがちな私たちに、そうではなくどこまで枠組みや制約を
はずしていけるか、ということを高木さんとの会話は思い起こさせてくれます。

それでも苦しくても執着してしまうということが私たちにはあり、
どんなに両手を伸ばしても携われる部分はほんのわずかしかありません。
どのように私たちは人生において大切なものを取捨選択すればよいのでしょう。

「自分が何か本当に求めているものというのがわかれば、それのためには捨てたり
犠牲にしたりするものがおのずとわかってきます。僕たちは『気楽が一番』を合言葉にしてます」

簡単なようで、それでいて深い。ユーモアと冗談の中でどこか光る哲学的な要素。
駆け込み寺のように自分の深く抱えた部分を共有できる、そんな不思議な空間がここにはありました。

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<Information>
高木雅弘
丹波市春日町下三井庄1174
0795-75-1437
営業時間 お問い合わせください

Interview writing Asako Saiki