銘菓の井上
70〜80歳代の方々から『井上ベーカリー』という愛称で呼ばれ親しまれている、銘菓の井上。
というのは戦後間も無く、パンやシュークリームの洋菓子の加工販売を始められたというのが
由縁だそうです。その後、時代の流れを読みとり、お爺様が『かち栗最中』を開発され、
お父様の世代で和菓子店へと展開されていきました。
その和菓子第一号の『かち栗最中』は、現在も不動の人気菓子です。
三代目を弟さんと共に支えていらっしゃるという井上さん。
幼少期は、お爺さん、お父さんや、職人の作業中、
作業台の向こう側でよく見学をしていたそうです。
「生地を少し取っては、粘土みたいにして真似したりして遊んでましたね。」と
懐かしそうにお話し頂きました。そんな井上さんの手捌きはまるで魔法のようです。
大きな生地をひとつひとつの和菓子の大きさに分け、型を作りなされるその動きは、
緻密な職人技です。
「何度でも丹波に足を運びたくなるような味を作り、丹波を発信し、
また伝承するお菓子屋でありたい。」
井上さんはこのような郷土愛溢れる想いを抱き、日々和菓子を作られています。
また「おじいちゃん、おばあちゃんが、美味しいお茶と美味しいお菓子を囲み、
孫たちと談話する時間を作って頂きたい。そんな場を提供できるお菓子を作っていきたいです。」
と静かに温かく、そして優しくお話し頂きました。
新たに丹波の黒豆を生かしたお菓子を作成するに当たり、『黒南蛮』が生まれました。
白い生地に黒豆がよく映え、卵の白身で作り上げられたカステラはホワホワした
食感の新しさに衝撃を受けます。
2006年に丹波市山南町にて丹波竜の化石が発掘されたことをきっかけに、
丹波竜カステラも作られました。
現在は丹波市のゆるキャラである『ちーたん』の印が押された可愛らしいデザインで、
白餡の饅頭が優しい甘さに包まれた、なんとも言えない美味しさに仕上げられています。
焼き上がり直後はサクサクしていますが、店頭購入時にはしっとりとした食感と変化しています。
優しく美味しい和菓子を丹精込めて作っていらっしゃる井上さんは、
いつも自然体でおられ、後継ぎのことについても『継いでほしい』とも『継ぐ』とも言われたことも言ったこともないなか、高校を卒業されてすぐに滋賀県の『たね屋』で5年修行されました。
「ここでともに修行した仲間は、現在に至り掛け替えのない存在であり、
支え合っています。北海道、東海道、名古屋など、日本各地に仲間が居ます。」と
笑顔でお話し頂きました。ありのままを大切にしていらっしゃるからこそ、
温かな想いと優しい味のお菓子を作り出されるのだと感じられます。
そんな井上さんの休日の楽しみは、息子さんの野球観戦。
大事なひとときをビデオとカメラで納めておられます。息子さんの未来においても、
「自分で決断すれば良い。」と話され、
ごく自然にありのままを受け入れられていらっしゃいます。
〈Information〉
【住所】 兵庫県丹波市柏原町北中60-4
【電話】 0795-72-0147
【HP・購入できるサイト】なし(電話問い合わせ)
【駐車場】 あり
【営業時間】 AM 9:00~PM7:30
【定休日】 不定休
2014.04.20
Interview writing Juka Oka