優しさ一筋の老舗和菓子屋。谷甲賀堂

氷上町の成松地区。
中世のころから物資の集まる場所として商いが行われていたここでは、今でも妻入り白壁の商家の建物がつらなっています。朝の穏やかな空気の中、ゆったりと道を歩くおばあちゃん達。道端にあるプランターに咲く手入れされた花。そんな懐かしく優しい風景に溶け込むように「谷甲賀堂」はあります。

和菓子の老舗でありながら、和菓子以外にも地域の人の様々なニーズにこたえるお店として長く愛されてきました。
谷 和浩さんはその5代目。

専門学校を卒業後、和菓子店と洋菓子店で修業されたという和浩さんの代からは、
和菓子だけでなくクッキー、パウンドケーキなどの洋菓子も扱うようになりました。

「『和菓子屋は和菓子しか作らない』という時代が終わったように感じ、広くお客さんの想いにこたえたいので洋菓子も始めました。パウンドケーキには丹波産の卵を使ったりして材料にもこだわっています。また焼くときには栗を入れて、黒豆を下に沈ませる形で使っています」

店内には和浩さんがすべて手作業で作られたというお菓子のほか、
地域の名産品、お野菜にお茶、お花なども並んでいます。

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その中でも一番の人気商品はやはり「甲賀山最中(もなか)」。
ぱりっとした栗の形の手のひらサイズの最中に、濃厚で甘み深い栗入りの餡(あん)が包まれています。
粒あんですがその粒をつぶしながら炊くという独自の工夫が施され、その餡の舌触りの存在感あるなめらかさはここならではの味です。作業場には今の時代珍しい昔ながらの石のかまどがあり、小豆を炊くのはそこで行われます。

「小豆を一晩水につけて、この石のかまどで炊くんですけど、石の中だと炊いた後の余熱の『もち』がちがいます。
その余熱が餡の味を変えてくれているのだと思います。」

小豆の炊き方というのが一番味わってほしいポイントだと、和浩さんは話します。

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代々受け継がれてきた道具や作り方を大切にする一方で、和浩さんは常に新しいアイデアを生み出しています。
バレンタインデーやホワイトデー向けに、また送別会等でのはなむけに、2月から4月までの限定メニューで販売されている「はぁ~と最中」。紅白のかわいらしいハート形の皮の中に栗を多めに配合した餡がつつまれていて、多くの問い合わせを受ける人気商品だということです。

「誕生日ケーキやクリスマスケーキも、完全予約制で作りますし、このはぁ~と最中も『バレンタインにチョコやなくて、あんこで何か作ってくれへんかな』というお客様の要望で作りました。
営業先で配っていただいたということもあるようです」

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またひな祭りのシーズンには、年配のお客様から「菱餅はきれいだけど、食べるときに切ることができない」という話を受け、菱餅を小さくカットした商品を作りました。これもおばあさんが網の上で焼いてお孫さんと食べたり、お汁粉の中に入れて彩りを楽しんだりと多くの人に喜ばれたのだそうです。

「頭の中に、次作りたいお菓子のアイデアはいっぱいあります。
自分で材料を仕入れたて試作して、味見をする中で商品化していきます。」
常に新しいアイディアを取り入れて喜ばれるものを提供していく姿勢を崩しません。

「朝は野菜などのセリに行きます。そしたら野菜なんかはとても新鮮なんですよね。
そういうのを見ていると、お菓子も新鮮でなければならないと思っています。作ったお菓子も、作り立てだけを売るようにしています」

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和浩さんは常に食べる人の立場、お客様の立場に立ち、耳を傾けた和菓子づくりを心掛けています。
例えばいちご大福などでも女性が食べやすいような一口サイズにつくり、求肥(ぎゅうひ)を薄くしてすぐに餡の歯触りを感じられるようにするなど、随所に和浩さんの気配りと工夫が見受けられます。そうして作ったお菓子を物産展や臨時店舗でも販売する活動的な一面も持ち合わせていらっしゃいます。その奥にある想いはとても実直なものでした。

「僕はアナログ的な考え方なのかもしれませんが、やっぱり食べものを作っているので、『私が作っていますよ』と顔を見てもらって売りたい、出会った千人の中で一人でも来てくれたらいいと思っています。そういうつながりの中で『うちのお菓子じゃないと』と言ってくださるお客様もいますし、先代からうちを気に入ってくださるお客様もいます。これからもそんなお客様に出会えたらと思います」

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真摯な態度でお客様にもお菓子にも向き合われている和浩さん。
その和浩さんが安心・安全に食べてもらえるように作られたお菓子は自分で食べるのにも、
誰かのプレゼントにするのにも喜ばれる品になっています。
言葉に思いに答え続けた丁寧なものづくりのあり方を、一口の最中と餡のハーモニーから味わい知ることができます。

interview / writing : asako saiki

| Information|

谷 和浩|谷 甲賀堂
電話番号/ 0795-­82−1168
兵庫県丹波市氷上町成松312−2
営業時間/ 8:00〜18:30
定休日/ 不定休(お問い合わせください)
ホームページ/https://tani-kogado.com/
クレジットカード/ 不可