暮らしの中で紡ぐ布。
丹波布作家イラズムス千尋さん

 

田園風景を少し内側に入ったところにある、「青い屋根のおうち」。
昔ながらの古民家をご主人と一緒に、手作業で少しずつ修繕しながら暮らしている、
ここがイラズムス千尋さんのお宅でした。

ギャラリーにする予定の2階のスペースには張られたばかりの床と漆喰の壁が、
窓から自然に取り入れられる日の光とともに明るさを醸し出しています。

千尋さんとご主人が様々な場所で出会われたという古道具たちは、そんな手作りの空間にしっくりとなじみ、
使われなくなっていたモノたちにとってここへきてまた「働ける喜び」が息づいているようにすら感じます。

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幼いころはお友達と一日中外遊びに興じていた、活発な女の子だったという千尋さん。
学生時代は陸上、ラクロス、就職されてからもダイビング…、千尋さんの生活の一部にはいつもスポーツがあり、
芸術について意識されたことはほとんどなかったのだそうです。

それでもその中で、
「物と物を『合わせる』というのが好きでした。いつからか、父のネクタイを選ぶのが私の役目で…、
そのうちに布にも興味を持つようになったんですね」

『合わせる』ということが自然と千尋さんの中でキーワードとなり、
糸と糸を『合わせる』機織りにもいつしか惹かれていきました。

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焼き物を作られているご主人の独立とともに、土地があり窯が持てる丹波市に移ってこられた千尋さん。
丹波市というのは子供のころの千尋さんにとっても、おじいさま、おばあさまが住んでいたというどこか
なじみ深い場所でした。そして、その土地にいざなわれる形で出会われたのが「丹波布」です。

紡いだ糸を草木染にて染色し、それを『組み合わせて』織られる布。
木綿を織ってみたいと思っていた千尋さんにとってそれはしっくりとくる出会いでした。

「丹波布の工程では、染めが面白いと思います。
また木綿なのですが、ほかの木綿が持っている雰囲気とは少し違った独特の風合い、
それが丹波布の特徴であり、それを生かさなければと最近思うようになりました。
とても素直な布なので、自分自身がより出てしまうようなところがありますね。」

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丹波布伝承館の長期生の課程を終え、ご自分で丹波布を織られるようになってから、
その作品には、自然の風景の中にある色から得たインスピレーションが込められているのだとか。
常に自分のインスピレーションを大切に、素直な感性で人生に素敵な出会いをもたらしてこられた千尋さん。
その千尋さんの飾らない姿勢は人間関係の中ではぐくまれ、また新しい人間関係へと紡がれていきます。

「周りにはずっと恵まれていると感じています。
親にも大事に育ててもらいましたし、学生時代にもいい友達に恵まれました。
丹波に来てからは同年代の方と付き合う機会だけでなく、
上の世代の人と付き合うことも増えて、いつも見守ってくださっているのでどこか安心できています」

そこにいることに、話すことに、成していることに無理がない。
だからこそ、千尋さんと接するときに、相手も余計な肩の力が抜けて話せるのかもしれません。
それでも「自分自身が出てしまう素直な布」、丹波布。
それを美しく織りあげるために千尋さんが気を付けていらっしゃることはなんでしょうか。

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「常に自分自身に言い聞かせていることは、目の前にあることや自分のやるべきことは100パーセントの力でする、
ということです。自分の100パーセントの力を出してやれば、何か返ってくるものがあると信じてやっています。
丹波布もそうですが、自分が『面白いから』と思って納得して決めたものに関しては頑張れます」

「自分自身で決めたということ」それが千尋さんの原動力になる一つのキーワード。
それはネクタイだけでなく、様々なことを千尋さんに「選ばせた」ご両親の姿勢から受け継いだものかもしれません。

そこにある自然から、人と人とのやりとりから、ありのままに。
千尋さんが織りなすその布は、千尋さんが選んできた人生を縦に横にと織り合わせ、
だからこそ出会った人の心を優しくつかむ美しさを、静かに放っています。

 

| Information |

イラズムス千尋 | ギャラリーAO    〜 sankara  〜
http://www.sankara-textile.com/work/
電話番号 / 090-6435-9625
兵庫県丹波市春日町鹿場491
営業時間 / ご連絡ください。
教室開催 / 火、水、木 9:00-15:00
参加費 1時間3,000円
教室詳細  http://www.sankara-textile.com/school/