慶応3年創業の老舗、市島町の鴨庄酒造

 

慶応3年創業の老舗、鴨庄酒造。

大正時代に建てられた建物と、いま専らお酒造りに使われているという新館と二つの建物が並んでいます。
大きなタンクがたくさんある光景は圧巻で、また大正時代の木造の建物には
古き良き鄙びた雰囲気がお酒の甘い香りとともに味わえます。

こちらの人気商品はなんといっても「百人一酒」。
百人一酒の一番の特徴はその原料に100%市島町鴨庄産のコシヒカリを使用していることです。
酒米といえば兵庫県内でも有名なのは山田錦。
コシヒカリを使うお酒というのは非常に貴重な存在です。

この希少なお酒造りの始まりは、10年あまり前のちょっとした雑談だったそうです。

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「鴨庄自治会の会議のあとで、なんとなく話題になったんです。
地域のコメが作っても余ってしまって困っている、というコメ農家さんの話で、
それでは『お酒にしてはどうか』という話になって」

市島町鴨庄地域のお米は土壌と水との不思議な相性で、丹波米の中でも特に人気のある品種になっています。
そのお米を贅沢に使用したお酒ですがその開発にはまさしく「血のにじむような」努力があったのだといいます。

「持ち込んでもらったお米をお正月に間に合うように仕込みます。ただコシヒカリというのは、炊いて食べるのはうまみがあるけど、酒にするには雑味が強すぎます。そのコシヒカリから飲みやすい酒を造るというのでコメの磨き方から麹の蒸し方から何から、研究して工夫しました」

努力と研究熱心な姿勢で作り上げられたこのお酒は、
同業者の方までも「コシヒカリで こんなお酒がつくれるんですか!」と驚かれるほどの出来。
また、できたお酒は普段お酒を飲まない人や女性から特に支持されています。

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社長の荻野信人さんは、酒造場の長男として生まれ、
家を継ぐために大学の農学部を出た後はお酒の分析や研究にかかわってこられました。
奥様はそんな社長のことを「物をつくることにとにかく一生懸命、夜12時回るより早く母屋に帰ってきたことは、結婚して50年このかたありません」と評します。

「杜氏さんでも一回雇ったら何年もかけて育てています。その杜氏さんが体調を悪くして辞めてからも感謝していただき、亡くなられてからもお孫さんがお米やお肉などをもって訪ねて下さる、そんな心と心の繋がりに感謝してます。」

何に対してもじっくり腰を据えて、また社長自らお酒造りにかかわり続け、
お酒造りにかける思いが非常に強く、職人肌。「だからPRとか商売とかは全然です」
確かに鴨庄酒造のお酒はほかのお店で見かけることはなく、直接酒造場でのみ求められる形になっています。

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そのような形をとっているのにもかかわらず、長く地域で愛されてきて、
酒離れといわれるこの世の中で、4代目の社長があとをついでからも50年続いてきている のはなぜでしょうか。

「とにかくすっきりと飲みやすく、若い人や女の人、
お酒の弱い人にも関心をもってもらえるといいな、と思って造っています」
実は酒蔵を継ぐために生まれ育ち、幼少のころは後継ぎという意味で
周りから「ぼんちゃん」と呼ばれ続けた社長ですが、ご自身はそれほどお酒に強くないのだとおっしゃいます。

「だから、特に悪酔いしない、頭に残らないお酒を造るということがよくわかる」
自らの感じ方や体をもって日々研鑽に励んで作られたその姿勢に、多くの人に愛され続けた理由を垣間見ました。

お酒を造るのは生みの苦しみがある、「でも楽しい」と社長は語ります。

「お酒を造ったり発酵させたりするのは微生物でしょう。
昼も夜もなく発酵し続けるのでやはり、寝る時間などは遅くなったりします」
お酒をしっかり見守り、真剣に集中して造りたいから
「仕込み中は閉めていることも多いので、来る前に予約の電話をいただけるとうれしいです」とのこと。

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神戸や明石からのリピーターも多く、みなさん電話をしてから来られるそうです。
また この百人一酒は温度を10~15度に保つことがおいしく飲むコツ。
夏場は冷蔵庫で保管し、冷蔵庫から出した場合は少し冷えが収まった状態で飲むのが一番だとか。

とことんこだわって作られたお酒を、少しだけこだわって飲む時間はとても贅沢な時間になりそうです。

interview / writing : asako saiki

| Information |
鴨庄酒造株式会社 荻野信人
電話番号/ 0795-85-0488
兵庫県丹波市市島町上牧661−1 駐車場/ あり
営業日/ お問い合わせください
クレジットカード/ 可